クリスマス・イヴ
「もうすぐクリスマスね、アダム。」
「何を言っているんだよ、イヴ。クリスマスっていうのはこれから何千年もあとに生まれるキリストの誕生を記念したものだから、今はまだ無いんだよ。」
「あなたっていつもそう。いいわ、じゃあ冬至のお祝いにしましょ。」
「冬至かぁ。まあ冬至なら無いとは言えないけど、天文学がある程度発達しないとそういう概念も出てこないかも…」
「もうっ！ そんなに細かいこと言うならヘブライ語を話してみなさいよ。」
「おいおい、無茶言うなよ。ヘブライ語なんてちんぷんかんぷんだよ。」
「じゃあ、細かいこといわないでクリスマスの用意を手伝ってちょうだい。」
「はいはい。それで、何をすればいいんだい。」
「クリスマスにはご馳走がなくっちゃ。何処風の料理にしようかしら。あら、でも私達って何人なのかしら。」
「うーん、後世の人たちはいろいろ言っているみたいだけど、ソビエト人という説が有力だね。」
「あら、ソビエトなんてもう無いじゃない。いえ、これから出来るんだっけ。でもどうしてソビエトなの？」
「それは、身に付ける物もろくに無ければ、食べる物も無い。そんな状況で、自分達が楽園にいると信じていたからだってさ。」
「ひどい言われようね。でもやっぱりあそこを出てきて正解だったわね。」
「おいおい、そんなことを言って、彼に聞かれたらどうするんだい。」
「かまわないわよ別に。でもお料理どうしようかしら。ソビエト料理なんてボルシチとピロシキくらいしか知らないし。」
「君がそんな料理を作れるなんて知らなかったよ。」
「実際に作ったことはないけどね。」
「あ、やっぱり他の国の料理にしようか。」
「そうね、日本料理なんてどうかしら。私達、日本語を話しているんだから日本人かもしれないわ。」
「いやそれは無いね。日本人ではありえないよ。」
「あら、どうしてよ。」
「あててごらん。」
「えー、見た目が日本人っぽくないとか。でも、絵なんて画家が勝手に描いたものだし…。ヒントはないの？」
「そうだね。実は同じ理由でドイツ人でもありえないんだ。」
「だんだんわかってきたわ。あなた、あんなところにいた方が良かったっていうの！」
「そんなことは言ってないよ。でも僕達が日本人かドイツ人だったら…。」
「もういいわよっ。日本人かドイツ人だったら規則を破らないから楽園を追い出されなかったっていうんでしょ。いいわいいわ、クリスマスイブは他の人と一緒に過ごす事にするからっ！」
「えーと、誰と？」
（２００３．１２．１９）
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