シャーロッキアン
待ち合わせの時間にだいぶ遅れて、彼女が急ぎ足で来るのが見えた。
「おまたせー」
「それほどでもないよ。それにストッキングが伝線したんじゃしょうがない。」
「またー。なんでわかるかな。」
「まあ、初歩の推理だね。そんなありきたりの色のは持ってないはずだし。」
「それだけ。ただのあてずっぽうじゃない。」
「そのバックからはみ出してるのは履き替えたやつじゃないかな。」
「えっ、どこどこ。」
彼女はあわててはみ出していたストッキングをバッグの中に押し込んだ。そして少し怒ったように言った。
「まったく、もお。ホームズおたくなんかと付き合うもんじゃないわね。」
「シャーロッキアンと言って欲しいね。世界で最も読まれている推理小説とその信奉者たち。」
「はいはい。ホームズの誕生日にはお祝いするんだったわね。でも、世界で最も読まれてるっていうのは本当なの。」
「そうだね、推理小説としてはそうかな。まあ正確にいえばホームズは脚色された犯罪記録なんだけどね。」
「はいはいはい。で、推理小説以外ではあるの？」
「そうだね。いくつかあると思うけど、かなり昔の本で今も全世界で読まれているのがあるよ。」
「ふーん、どんな話。」
「全部通して読んだ人はそんなにいないかもしれないけど、その中のいくつかのエピソードは誰でも知っていたり、ことわざみたいになっているものもあるよ。ファンクラブというかその本を読むための集りや場所は世界中にあるね。」
「私も知ってるかな。」
「もちろん知ってると思うよ。それに、その本の主人公の誕生日とされている日には世界中で盛大にお祝いされる。」
「えー、ちょっとまってね。考えるから。」
ｒｅｔｕｒｎ ｔｏ Ｘ