サンタクロースへの手紙２
彼女はこちらをチラッと見ると、素っ気無く言った。
「ニュートリノ。」
そして、グラスを見つめ続けた。
「そのグラスでは、水の量が少なくて効率が悪いでしょう。それに場所の問題もあると思うけど。」
「場所って、どういうことかしら。」
「つまり、ニュートリノ以外のもの、例えば宇宙線がチェレンコフ光を発生させる可能性があるということです。
そういった影響を避けるには地下深い場所でないとね。」
「そう。」
「それに光センサーの感度の問題もあるかな。」
そう言って、私は片目をつぶった。
「そうね。でも、肉眼で見える可能性も無いわけではないわ。」
「そうですね。そして、サンタクロースが存在する可能性も無いわけではないと思いますよ。」
「本当？」
彼女は興味を持ったように、こちらを向いた。
「聞きたいですか。」
私は、そう言ってから話し出した。
「あなたが書いた手紙は、きちんとサンタクロースの手に届いたんですよ。だからプレゼントがとどいた。」
「でも、どうやって。」
「たしか、フィンランドのどこだかにサンタクロースの住む村があると聞いたことがあります。そこに手紙を書くとちゃんとサンタクロースの返事が来るそうです。」
「そこに届いたっていうの。」
「いや、多分違うでしょう。郵便局の人が親切で、宛名を書き込んでくれた可能性も無いとは言えないんですが、普通に切手を貼った手紙ではエアメールには料金が足りないんですよ。だから、たぶん手紙は宛先不明として処理されたんでしょうね。」
「それじゃあ、サンタに届かないじゃない。」
「いや、届いたんですよ。宛先不明の手紙は送り主に返送されます。自分の住所は書いたんですよね。」
「そうよ。だって住所がわからなかったらサンタさんはどこにプレゼントを持っていったらいいかわからないでしょ。」
「そうですね。そして、きちんと自分の住所を書いた手紙はきちんと返送されてきたというわけです。それを受け取ったのは、多分あなたのお母さんでしょうね。」
「ああ、そういうことだったの。」
彼女は何度かうなずいていたが、あまり嬉しそうではない。
「どうかしましたか。」
「なんか残念。だって、理由がわかるまでは、ひょっとしたら本当にサンタさんがいるのかもって思えたのに。」
「そうですか。お母さんが、もしかしたらお父さんもですが、サンタクロースだなんて素敵じゃないですか。」
「でも本当のサンタじゃない。サンタなんて本当はいないんだわ。」
「それは、どうでしょうかね。もしサンタクロースがいないのだったら、あなたは何故プレゼントを貰えたのですか。」
「えっ。だって、それはクリスマスだから…。」
「だから何故、クリスマスだとプレゼントを貰えるのですか。」
「それは…。」
「クリスマスにプレゼントを貰えるという、そのことこそがサンタクロースの存在を証明しているとは思いませんか。結果が存在するのだから原因も存在する。証明終わり。」
彼女は軽くうなずいて、ニッコリした。
「そうね、そう考えるとちょっと素敵な気分ね。」
「それに、口ではサンタクロースを信じないと言っている人でも、このサンタクロースの不思議な力には逆らえないみたいですね。」
私はそう言って、小さな、綺麗にラッピングされた包みを彼女の前のカウンターに置いた。
「これは？」
「さっき、ぶつかりそうになった男の人が落としていったんです。彼に返しておいてくれませんか。プレゼントを落として困っているんじゃあないかね、あなたのサンタクロースは。」
「あら大変。」
彼女はそう言って立ち上がった。
「たぶん、まだ近くにいると思いますよ。」
「そうね。どうもありがとう。」
彼女はそう言い残して足早に店から出て行った。
（おしまい）
ｒｅｔｕｒｎ ｔｏ Ｘ