地上最後の男
「一番短い小説って何だと思う。」
「さあ、何だろうな。」
「地上最後の男という話は知ってるかな。」
「ああ、あれか。たしかこうだったかな。地上最後の男が部屋の中で座っていた。そこにノックの音が…。」
「そうそう。書いたのはフレドリック・ブラウン。この話のすごいところは、そこで話が終っているところだよね。誰でも続きを考えないではいられない。一番有名な続きは、これかな。男がドアをあけると、そこに立っていたのは地上最後の女だった。」
「こんなのはどうかな。男がドアをあけると、そこに立っていたのはサンタクロースだった。なんてね。」
「そういえば、最近インターネットでそんなような話を読んだっけ。どんな話かというとね…。」
地上最後の男が部屋の中で座っていた。そこにノックの音が…。
男がドアをあけると、そこに立っていたのは赤い服を来た女だった。
「これは、これは。地上最後の男を迎えにきた地上最後の女がサンタクロースだったとはね。」
男が、ふざけたように言ったが、女は肩をすくめただけで何も言わなかった。男もそれ以上は何も言わず、女の後に続いて外にあった乗り物に乗り込んだ。二人を乗せた乗り物は、音も無くふわりと宙に舞い上がった。
「いまさらになるが、何故もっと早くになんとかしなかったのかと思うよ。今はまだ大丈夫だろうと、次世代に問題を先送りしてきたツケがまわってきたわけだ。」
男は、独り言のようにつぶやいた。目は遠くなってしまった地上を見つめている。
「人類も恐竜のように滅亡する運命だったのかもしれない。」
「それは違います。」
女が男の方を向いて言った。
「創世記で、アダムとイブは楽園を追われても生き続けました。そして、ノアの洪水でもノアと家族は生き残るために力をつくしました。そして、今回はあなたです。」
「あのまま、そっとしておいてほしかったよ。」
「人類の為に、あなたが必要とされているのです。今回の大脱出計画も、あなたの力が無くてはうまくいかなかったでしょう。それが一人だけ地球に残りたいとは感傷がすぎますよ。」
「わかっているよ。それに地球の再生が進めば、また地上に立てる日がくるだろう。その為の方法もいくつか考えてある。今までは、脱出計画にすべての力を注いできたからな。」
「それでこそ博士です。」
「ところで、あとどのくらいかかるのかな。」
「あと１時間ほどでコロニーに到着です。そろそろ肉眼でも見えるはずです。みんな、歓迎会の準備をしてますよ。なにしろ地上最後の男の到着ですから。」
二人の乗る宇宙船の窓から、コロニーが小さく見えた。地上を離れた人類の暮らす何百というスペースコロニーの一つだ。
ｒｅｔｕｒｎ ｔｏ Ｘ