サンタクロースはいるの?





「ねえ、パパ。サンタクロースって、本当にいるの?」


「もちろんだよ、バージニア。」


「バージニアって誰? わかった、パパの恋人の名前ね。ママに言っちゃお〜と。」


「こら、こら、待ちなさい。」


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


「いいかい。今から100年以上前にも同じ質問をパパにした女の子がいてね…」


「えーっ。パパって100年以上前から生きてたの〜。」


「そうじゃない。その子のパパだよ。それでそのパパは、サン新聞に聞いてみたらって答えたんだ。」


「ふーん。そのころも子供の質問を、そうやってごまかすパパがいたんだ。」


「あー、誰かな、それは。」


「でも、サンってパパラッチの写真を載せてるタブロイド紙でしょ。」


「そのサンじゃなくて、ニューヨーク・サンっていう、ちゃんとした新聞だ。」


「そうなんだ。」


「それで、その子は本当に手紙を書いたんだ。素直でいい子だよね。誰かにも見習ってほしいくらいだ。」


「あー、えーと。それでどうなったの。」


「サン新聞は、その手紙に対する返事を、社説として載せたんだ。」


「どんな返事なの?」


「こんなのさ。」





 ニューヨーク・サン紙、1897年9月21日の社説より。


サンタクロースはいるの?

 私共は、以下の、これほど傑出した書簡に対し、
直ちにお答えできることをうれしく思うとともに、
サンの支持者の中に、その誠実な著者を入れる
ことが出来たことは、私共に、非常な満足を与える
ものです。

 へんしゅうしゃさま。私は8歳です。
 私の友達が、サンタクロースはいないって言います。
 パパは、「もし、サンにそう書いてあるのならそう
 だろう。」と言いました。
 本当のことを教えて下さい。
 サンタクロースはいるんですか?

 バージニア・オハロン
 95番通り西115

 バージニア、君の友達は間違っているよ。
彼らは、疑い深い年齢の、何でも疑う考えに影響
されているんだ。そして、目に見える物以外は信じ
ないんだ。自分のちっぽけな頭でわからないこと
なんて無いと思っているんだ。いいかい、バージニア。
人は、大人でも子供でも、ちっぽけなものなんだ。
この偉大な天地万物の中で、人の知恵は、ほんの虫、
アリのようなものなんだ。人と、限り無い世界とを
比べたとしたら。そして、すべての真実と知識を手に
することのできる知能によって評価をしたとしたら。

 そうだよ、バージニア。サンタクロースはいる
んだ。彼は、確かに存在する。それは、愛や寛容、
そして献身が確かに存在していて、君も知っている
ように、沢山のそれらが、君の生活にすばらしい
美しさと、喜びを与えてくれるのと同じように。
ああ! 世界は、なんてつまらない所だろう、もし
サンタクロースがいないとしたら。そのつまらなさは、
バージニア達がいないと同じくらいだろう。
そこには、生活をより良いものにしてくれる、純真な
信仰も無く、詩も無く、ロマンスも無い。私達には、
見たり感じたりする以外の楽しみは、無くなってしまう
だろう。子供時代に世界を満たしている不思議な光も
消え失せてしまうだろう。

 サンタクロースを信じないだって! 妖精も信じない
のかい。パパに頼んで、サンタクロースを見つける
為に人を雇って、クリスマスイブに、全部の煙突を
見張らせることも出来るだろう。でも、もし君がサンタ
クロースが来るのを見なかったとして、それで何が
わかるだろう。誰も、サンタクロースを見たことが
無いというのは、サンタクロースがいないということ
じゃないんだ。世界で一番本当のことは、子供にも、
大人にも見えないんだ。君は、芝生の上で妖精が
ダンスをするのを見たことがあるかな。もちろん、
無いさ。でも、それが妖精がいない証拠にはならない
んだ。誰も、世界にある、目に見えなかったり、見え
なくなることが出来る不思議なことのすべてを、想像
したり、心に描いたりすることは出来ないんだ。

 君は、赤ちゃんのガラガラを壊して、何が音を出して
いるのか見ることが出来るだろう。でも、目に見えない
世界を覆っているベールはどんなに力持ちの男でも、
全部の力持ちの男の力をあわせても、引き裂くことは
出来ないんだ。信仰や空想、詩、そしてロマンスだけが、
覆い隠すものを押しのけて、その向こうにある天上の
美と栄光を、眺めて心に描くことが出来るんだ。
本当かだって。ねえ、バージニア。世界の中で、本当で、
変ることがないのは、それだけなんだ。サンタクロースが
いないだって! ありがたいことに、彼は生きていて、
永遠に生き続けるんだ。今から千年たっても。
バージニア、それどころか千年の十倍たっても彼は、
子供達を喜ばせ続けるんだ。





「ふーん、いい話ね。」


「そうだろ。それで、それから毎年、クリスマスの時期になるとサンは同じ社説を載せていたんだ。」


「そうなんだ。じゃあ、今も載せてるの?」


「いや、ニューヨーク・サンは、もう無いんだ。」


「同じ社説ばっかり載せてたからかしら?」


「さあ、新聞に手紙を出して聞いてみたらどうだい。」




return to X